2020年に訪日外国人観光客数4,000万人を目指す日本。中でも中国からの訪日客は最も多く、2017年の訪日外国人観光客数2,869万人のうち735.6万人で全体のおよそ4分の1を占める割合だ。引き続き国内各社はさまざまな方法で急ピッチでインバウンド対策を進めている状況が続いている。今回フルスピードは、訪日インバウンドに活用されている中国の主要メディア「百度(バイドゥ・Baidu)」「微博(ウェイボー・Weibo)」「微信(ウィーチャット・WeChat)」それぞれの担当者から、現状の訪日インバウンドの状況や、ユーザー動向、各メディアの戦略などを座談会形式でインタビューした。中国主要メディア3社が一同に集まり意見交換することは国内初の試みである。今後の訪日インバウンド戦略に役立つ情報として3回に分けて公開する。
第一弾はこちら
インバウンド担当者が解き明かす「爆買い」の実態とは。
3)弊社が行ったアンケートでは、訪日中国人観光客の方々が日本に感じている魅力や興味は2017年2月の時点ですでに「買い物」から「食事」「日本の景色(観光)」などに変化しています。当時から更に1年が経過した今現在はどのような状況なのでしょうか。
三島:中国からの旅行者が日本でどのように行動しているかというのは、みなさん関心が非常に高いのではないでしょうか。我々は羽田空港や銀座などで独自の路上調査を定期的に実施しています。旅行者のリアルな声を聞くことで、興味深い情報を得ることもあります。また、2016年ごろの日本のメディアを見ていると「爆買いが終わった」という話題がしばしばあがっており、そのころから買い物中心から食事や観光中心の体験型へと移行する動きも見えてきます。みなさんは中国旅行者の行動について実際に変化を感じることはありますか?
國井:質問に、質問で返してもよろしいでしょうか?
一同:笑
國井:みなさんは、「爆買い」の実態についてどう思いますか?私が思っていることは2つです。ひとつは観光客の爆買い、もうひとつは転売目的のバイヤーによる爆買いです。最近の出来事でいうと、高島屋で限定人形「ロリーナ」100体を買い占め中国で転売したということがニュースになってました。これがおそらく「爆買い」の正体ではないかと思っています。2015~16年に一番注目されていたのは、観光客が家電量販店、ドラッグストアなどでカゴいっぱいに商品を詰め込んでいる爆買いの写真です。おそらくそれをメディアが報道したものが拡散されて「中国人の爆買いってこうなんだよ!」と大きく印象付けられたのだと思います。しかし、おそらく実態として最も売上に貢献したのは、買い付けのほうだと思っています。
三島さんのご質問に話を戻します。
2017年末に独自でアンケート調査を行いました。対象は、直近1年以内の日本旅行したことがある中国人2,810名です。アンケートの中で、訪日旅行の手配方法を聞いたところ、「全て個別で旅行を手配した」と回答した人は39.1%で、「団体・ツアー旅行(航空券・宿泊券がセットになっており、旅行スケジュールがあらかじめ決まっている)」と回答した人は32.7%、「パッケージ旅行(航空券・宿泊券がセットになっている)」と回答した人は27.9%でした。このように、ほぼ3割ずつにわかれていました。この調査結果から、分かるのは中国人観光客の約6割は旅行スケジュールを自分で決めているということです。
2016年以降、旅程を自分で決めるFIT(Foreign Independent Tour、海外個人旅行)が増え、団体旅行の割合が減っているのであれば、ある意味で「買い物中心から食事や観光中心の体験型へ移行した」と言えると思います。団体旅行の場合、既定ルートを時間通りに回り、ガイドさんが指定する商業施設などで買い物をします。自由時間がほとんどないため、商品を大量購入することになります。一方で、自由時間が多い旅行者が増えれば、買物時間は比較的分散しますし、観光地めぐり、日本体験がフォーカスされるのも当然だと思います。そして、いわゆる「“爆買い” が終わった」というのも、団体旅行者による「爆買い」が以前より減っているというのが正しい解釈だと思います。
松尾:買い物のスタイルや選択する場所が増えたということと捉えています。日本に来て、旅行ガイドさんに「これはいいよ!」と案内され買わされる、というよりは自分で選び、買いたいものを買って帰る傾向が強まったのだと思います。
Weibo内には「買い物・食事・旅行」に関する投稿が3本柱として変わらずあります。中でも食事に関しては今後さらに情報が増えていくのではないかと思っています。様々なデータを見ている中で、コンビニエンスストアの利用率が高いことに驚きます。旅行者は色々なものをコンビニエンスストアでたくさん購入して、それをホテルで食べる傾向があります。本当は訪日客はレストランに行って食事をしたいと思っているのですが、その情報がマッチングできていない、情報を知らない、レストランに行っても注文できない、という状況があるようです。ですから、Weiboのコンテンツはもちろんのこと、業界として提供する情報を増やしていけるようになれば、外国人観光客はもっとレストランを利用できるようになるのではないでしょうか。
中島:ここは会社としての立場を離れて、日本人として思うところをお話します。日本は今の訪日中国人に対してすごく自己中心的な見方になっていると思っています。というのは、「爆買い」ブームがあって、終わって、だけど2020年の東京オリンピックに向かって伸びていく…。このすべての要素が、日本からの視点で語られているからです。
日本人だから言えることですけど、「爆買い」という言葉には若干の皮肉が込められているような…。というのも、観光客が爆買いをして、日本人が日用品として買いたいようなものまで買い占めていく、その恩恵は大きく儲かってはいるけれど、なんとなく手放しでは喜べないよね、という論調に持っていきたいように感じている部分があります。
この「爆買い」の正体は何なのかということですが、中国は現在猛烈に経済発展が進んでいます。貧富の差はありますが、全体的に底上げされている状況です。また、いままで消費の主体でなかった若者たちがどんどん経済力をつけてより良いものを追求しています。必需品だけではなく嗜好品の売上が中国国内でも飛躍的に伸びていて、娯楽・エンタテイメントなど生活の質(クオリティ・オブ・ライフ)の向上につながる支出も増えています。これが現在の中国の姿です。
そんな中、日本旅行が突然ブームになり、パッケージ旅行が主流になっていました。するとツアーガイドによる集中的な購買が発生し、中国でニーズのある日本製品を一度の買い物で大量に買い込みます。そんなふうに極端な消費が生まれた、これがいわゆる爆買いの正体だと思っています。もちろん中国のバブリーなお金持ちが日本に来て炊飯器だけを大量に買っていく、なんていうこともありますが。中国経済の現状を鑑みれば当然の状況が発生していると思っています。
今後は、ツアーではなく自分たちで2回目・3回目を自由に計画して訪日する旅行者が当然増えていくので、買い物だけではなく食事や観光を目的とする、という変化も普通のことだと思います。ですから「爆買いの終了」というのは、訪日観光客の興味が体験型に移り、観光市場も成熟化してきた結果だと私はとらえています。
また、今までみなさんのご指摘のとおり、爆買いは減っていないと考えます。なぜかと言うと中国市場はこれからも安定して成長していきますし、クオリティ・オブ・ライフの追求というのは今後も途絶えることのない大きな流れだと言えます。その恩恵を受けて訪日旅行市場も成長していくのが実態だと考えています。
三島:様々なメディアのリリースを見ていると『爆買いの終焉』という根拠作りのために、1・2社のみにフォーカスして、「売上が落ちた」という部分にだけ焦点をあてているケースが多いように感じます。しかし市場全体として買い物消費額が落ちた、というデータは出ていないんですよね。我々がいま各所でお伝えしていることは、一定の買い物消費額は現在も維持されていて、むしろ2017年は2015年よりも消費額が伸びている、ということです。ですから引き続きしっかりと中国をターゲットにし、マーケティング戦略の中で中国の優先順位を下げるという選択肢は今のところまず無いと思います。
また、改めてデータの裏付けをして、なおかつメディアの情報を取捨選択できるように、各社も我々も情報を発信する側として気をつけなければと感じますね。
國井:買い物中心の話になったので観光地の話もちょっと差し込ませてください。このランキングは、2017年に日本国内で、モバイルで、百度検索で、検索した日本の観光地に関する検索数ランキングです。中国本土での検索数ではなく、この条件にしているのは訪日旅行者の検索ワードが知りたかったからです。1位が世界文化遺産に登録された富士山です、次に京都の清水寺、東京タワーと続きます。みなさん「忍野八海」ってご存知ですか?富士山の眺望スポットとして人気がある場所なのですが、中国からの観光客たちは、このキーワードを知っていて検索しているんだ、という驚きがありました。
一同:知らなかったです!
國井:実は「東京旅行」や「大阪旅行」というキーワードで調べる人は少ないんです。少し前のデータでは、一番が「北海道旅行」次が「沖縄旅行」次いで「大阪旅行」と…。東京や大阪を旅行の目的地にしている人のほうが絶対に多いはずです。ならば検索量も多い気がします。しかし、東京や大阪はすでに認知が高いため、ビッグワードではあまり検索していない傾向があります。「銀座」「新宿」「秋葉原」などより具体的なエリアに絞って検索している傾向です。「北海道」や「沖縄」など注目される観光地域ですが、「名護」「恩納」などより具体的な地名での検索は少ないという状態です。
三島:確かにこれは検索キーワードに顕著に差が出ていますね。
変化に応じて進化する中国主要メディア、その対応とは。
4)旅行者・クライアントの変化に応じて、サービス内容の追加・変更など、どのような対応をされていますか?
三島:旅行者の変化はもちろん、企業側の変化もある中でおそらく各社さんとも様々な対応を考えて実施されているのではないかと思います。3社が現在それぞれ具体的に行っていることはありますか?
國井:リスティング広告は定番なのですが、最近はインフィード広告が人気です。百度検索アプリ(手机百度)のニュースフィード中に出てくる広告です。もうひとつは動画広告です。動画広告は、クライアントニーズも高く、中国国内でも動画広告のマーケットが大きくなってきたこともあり、サービス強化を進めています。あとは、AR、VRを活用した広告にチャレンジ中です。
松尾:Weiboはプラットフォーム型SNSというのが大前提です。我々はクライアントの方々にぜひWeiboのアカウントを取得してくださいと呼びかけています。Weiboの中には一企業に対して1アカウントしか存在していません。我々が認証して付与することでユーザーは安心して情報を見ることができます。そしてファンを増やすことで、それ自体が自社の資産になるような動きが実際に可能です。
また、フィード広告も大変好調です。店舗でイベントを開催して人を集めるよりも、フィードを活用してターゲティング広告を出すほうが顧客獲得単価が安くなる、ということが実証できています。
中島:今年になってよく取り上げられているのが「ミニプログラム」というアプリに類似した動きができるアプリ内プログラムインターフェイスです。企業が我々のプラットフォームでサービスを提供する際、よりリッチな体験をできるような構築システムを作っています。同様に中国国内だけではなく観光市場の振興を受けてプラットフォームの国際化がなるべくスムーズにできるよう努力をしているところです。
現状、WeChatの機能を海外企業ではうまく使えない場合もありますが、今後うまく使ってもらえるような情報伝達と、プラットフォームの最適化や改善を広告海外市場向けにも行っていく方向で動いています。
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sai
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