中国主要メディア座談会

インタビュー

中国主要メディア座談会 Vol.1                   ~百度、WeChat、Weibo担当者に聞く、これからの訪日インバウンド戦略~

2020年に訪日外国人観光客数4,000万人を目指す日本。中でも中国からの訪日客は最も多く、2017年の訪日外国人観光客数2,869万人のうち735.6万人で全体のおよそ4分の1を占める割合だ。引き続き国内各社はさまざまな方法で急ピッチでインバウンド対策を進めている状況が続いている。今回フルスピードは、訪日インバウンドに活用されている中国の主要メディア「百度(バイドゥ・Baidu)」「微博(ウェイボー・Weibo)」「微信(ウィーチャット・WeChat)」それぞれの担当者から、現状の訪日インバウンドの状況や、ユーザー動向、各メディアの戦略などを座談会形式でインタビューした。中国主要メディア3社が一同に集まり意見交換する事は国内初の試みである。今後の訪日インバウンド戦略に役立つ情報として3回に分けて公開する。

スピーカー紹介


バイドゥ株式会社 国際事業本部 検索事業部 中国ビジネスコンサルタント マネージャー 國井 雅史 様

・バイドゥ株式会社 国際事業本部 検索事業部
   中国ビジネスコンサルタント マネージャー  國井 雅史 様
北京大学・社会学部を卒業。SBIサーチナ株式会社、株式会社マクロミルを経て、2014年にバイドゥ株式会社(Baidu Japan Inc.) に入社。国際事業部にて中国ビジネスコンサルタントとして、中国Webマーケティングを中心に、越境EC、インバウンド、日系企業の中国ビジネス支援などの業務に従事。

 

新浪日本微博株式会社 取締役副社長 松尾 昇 様・新浪日本微博株式会社 取締役副社長  松尾 昇 様
大学卒業後、伊藤忠商事と中国山東省で化学品工場の合弁会社立上に参画、その後三井物産株式会社を経て、2016年から新浪日本の設立に参加する。
現在、微博の企業や芸能人の公式アカウントの開設、微博を活用した広告業務の従事する一方、ユーザーのニーズに合わせ微博のKOLを起用しながら商品の越境EC販売のビジネスも立ち上げる。

 

 

Tencent Japan Business Development Dept. Manager 中島 治也 様・Tencent Japan Business Development
   Dept. Manager  中島 治也 様
2014年2月にTencent Japan合同会社に入社し、事業開発・投資業務を行う。
ゲーム・アニメ・マンガ等の日本コンテンツとテンセントとの事業提携を推進しつつ、対日本の戦略立案・投資に従事。その後、新規事業の開発・インキュベーションを推進し、2016年6月よりテンセントの決済サービスであるWeChat Payの日本展開を開始、同年8月よりテンセント広告サービスの日本企業向け販売を提供。2017年より、広告、決済、公式アカウント、クラウドを組み合わせた日本企業向けの対中国マーケティングソリューション、「テンセントブランドソリューション」を提供。

 

株式会社フルスピード 訪日ビジネス開発部 部長 三島 悠輔

・株式会社フルスピード 訪日ビジネス開発部 部長   三島 悠輔
2010年入社以降、数百社に対しWebプロモーションのコンサルティングを行う。
2015年より訪日ビジネスの事業立ち上げを行い、これまで中華圏をメインに、訪日インバウンドプロモーション・越境ECのマーケティングを支援。空港免税店や百貨店向けの来店プロモーションなど実績多数。
2017年より独立行政法人中小企業基盤整備機構の販路開拓支援アドバイザーに就任。

 

インタビュー


『インバウンド・マーケティング』から『クロスボーダー・マーケティング』へ

三島:本日はよろしくおねがいします。2015年春節にはじまった「爆買い」からおよそ3年が経ちましたが、みなさんそれぞれメディアへの広告出稿に関してどのような変化がありましたか?

プロモーションの手法が成熟してきている

國井:全体感を述べると、徐々にプロモーションの手法が成熟してきているように感じています。2015年は、Webマーケティングやグローバルマーケティングの経験有無に関係なく、さまざまな業種の企業様でインバウンドに関連する部署が新設され、とにかく、お問い合わせが非常に多かったです。「インバウンド元年」と言える年だと思います。当時はどの企業も「とりあえず何でも情報がほしい」という状態だったと思います。2016年は「KOL(キーオピニオンリーダー)」が話題になりましたね、その頃から「WeChat」や「Weibo」も話題になってきたのかな?という気がします。
2017年に入ってから「クロスボーダー・マーケティング」という言葉をメーカーさんなどから聞くようになりました。インバウンドと越境ECを同じ文脈で考え始めている風潮があるというのが現在の印象です。

中国企業がWeiboを含むSNSを使っている割合は結構高い

松尾:さまざまな企業からのWeiboへの広告出稿が増えています。中国企業がWeiboを含むSNSを使っている割合は比較的高いですが、日本国内の企業だとまだ一桁台の前半ぐらいです。また、中国の企業に比べてSNS広告に費やす金額の割合がまだ低いという状況があります。また近頃は、たくさん買い物をしてくれる中国人訪日客を帰国後どうやってフォローするか、というのが課題になっています。その対策としてWeiboのアカウントを取得し、訪日後の中国人ユーザーをWeiboのプラットフォーム上で確保する企業がとても増えています。そうすることで、帰国後も引き続き日本国内のメーカー情報を把握できるという点にWeiboは強みがあると思っています。
さらにWeibo内にはKOL(キーオピニオンリーダー)いわゆるインフルエンサーが多数おります。その人達が効率的に情報拡散することができるというのも、インバウンドだけではなくアウトバウンドへの誘導強化が進んでいる今の状態です。

2018年に入ってからは公式アカウントの運営のための広告活用だけではなく、ブランディング広告が増えています

中島:テンセントジャパンが広告事業を本格的に始めたのが2016年でした。インバウンドの主役である小売業系のお客様が公式アカウントを取得して広告サービスの中でフォロワーを増やすというような施策にトライしていただいた背景があります。2018年に入ってからは公式アカウントの運営のための広告活用だけではなく、ブランディング広告が増えています。広告でユーザーの共感を集めて友達同士でシェアしたり、広告に対してエンゲージをするような傾向が強くなっています。日本でも、例えば旅行系のプロモーション動画を活用してタイムライン上の「モーメンツ」で動画を配信し、サービスの認知度や理解度を高めるような利用傾向があります。

インバウンドだけでは中々売上があがらない

三島:クライアント側のリテラシーがかなり高くなってきたことと、インバウンドだけでは中々売上があがらないのでユーザーを循環させるために越境ECまでつなげられるような仕組みを作ることが大事なんだなというのは我々も強く実感しています。特に1~2年お付き合いさせていただいている企業様が、効果指標を社内で統制して媒体を選ぶというのがここ1年ほどでかなり浸透してきた印象です。

ブランディング・販促の切り分け!失敗しないためのマーケティング設計

三島:当社は来店送客系のプロモーションが比較的うまくいっている事例がいくつかあります。いずれもある程度ブランド認知度が高く、立地も良い店舗であるため、比較的成果を出しやすい環境にありますが、例えば3年ほどお取り組みのある免税店様だと、広告投入額の10-20倍の売上が安定的にあがっています。また最近Baiduさんと一緒にお取り組みさせていただいたドラッグストアでは広告投入額の30倍ほどの売上が出せたという事例もあります。このように各社の成功事例や失敗事例があれば、お答えできる範囲でいいのでお願いできますでしょうか?

國井:正確に言うと成功事例はあまり持っていないです。代理店さん、広告主様から「うまくいったよ!」と詳細を教えてもらわない限り、本当に成功したのか失敗したのか、自分たちでは把握できないというのがまず前提にあります。三島様のお話にもありましたが、フルスピードさんが成功されているというのはすごいなと感じます。
色々と話をうかがっている中で、課題だと思うのはKPIの設定と予算規模です。特に、インバウンド・マーケティングではKPIのハードルが高く、多くの広告主様が来店をKPIにするケースが多いようです。KPIの設定に関して、私どもは中国における広告主様の商品・ブランド認知度の有無をまず見ています。検索数を時系列に見れば、注目度が伸びているかどうかわかります。検索するという行為は、ユーザーが広告主様の商品名・ブランド名を覚え、興味・関心をもつという行為なんです。覚えないと文字を打てないので検索できないですよね。ただ、検索数が爆発的にのびることというのは、よほどの市場インパクトがないと難しいと思います。

次に予算規模の話ですが、「100万円ぐらい」という設定でご相談を受けることがよくあります。例えば広東省だけでも1省で1億人います、1億人というと日本の人口と同じぐらいです。では、日本国内のプロモーションで予算100万円を使って国内全体の認知を上げることができるか?と考えると…難しいですよね。

ブランディング・販促の切り分け!失敗しないためのマーケティング設計

松尾:我々も中国国内向けに情報発信しています。ただ、その情報で即座に日本のこの場所に人が集まるかどうか、というのはなかなか難しいのが実情です。広告予算をいただいても確実に人数をあつめるというのは難しくて、それでもKPIは来店者数を求めるとおっしゃるユーザーはどうしても多いので、その要望に答えるのはかなりハードルが高いです。旅行者もだいたい事前にスケジュールは決まっているんですよ。その中で「ここに来てくれ!」と広告を差し込んでもなかなかすぐには来てくれないのが現状です。ですので現在は取り組み方を少し変更しています。訪日中のユーザーをターゲティングして、フィード広告を配信するというのをやっています。もう一つは中国国内でクーポンを配っています。もちろん日本で使用できますし、そのメーカーさんが持っている販売先で使ってもらっても構いません。日本国内でのKPIとしては設定できませんが、国外であっても売上に貢献できるのであれば使い方の余地はあるなというふうには考えています。

三島:「旅アト」施策ですね。

松尾:そうですね。もしくは「旅マエ」ですね。訪日前からをKPIとして追えるのであればクライアントとしてはやってもいいよ、と言っていただけます。

三島:私達も空港免税店でうまくいった実績もあったのでいろんな店舗で試してみた結果、やはり立地と認知度の変数はかなり働くな、と思いました。

中島:広告を打つ目的として来店促進というのはもちろんあると考えています。一方で広告出稿する目的として「販売促進」と「ブランディング」の2つを明確に分けなければいけないと思います。
ブランディングは知ってもらう、販売促進は売上に対してダイレクトにROIをあげることだと思います。ユーザーにまず商品を知ってもらい、それから興味関心を持ってもらう、そして最終的に購入するというステップを踏むと思います。認知・興味関心を持っていない人に突然「買ってください」とお願いしても、おそらくそれは刺さらないでしょう。媒体の問題というよりも商品の理解度の問題というところが起因しているのではないでしょうか。もう1点は、広告自体がPULL型のプロモーション手法だということです。ユーザーがモーメンツを見た時に出現するような広告が大半で、来店促進を目的とする場合にはやり方を相当工夫しないと意図した効果は得られないと思います。現在中国では、WeChat上で電子クーポンを発行した位置情報をもとにフィード広告を表示するという取り組みを実施しています。しかしそれを日本でやろうとすると問題が2つあります。1つは対象の母数が圧倒的に少ないこと、もう1つはクライアント側で効果測定の体制が整えられないというところが多いですね。このような問題があり、なかなか販促系のキャンペーンを美しく実行するということが難しいように思います。

ですで、まず我々の強みである公式アカウントというSNSの受け皿を作り、認知を促します。そこから興味関心を持ってもらうのは、WeChatが得意としているところです。その中でKPIをどう設定するかというところで、我々は例えばフォロワー数や動画再生数、エンゲージ数などをKPIとしてご提案し同意いただいている状況です。

我々も訪日時に店舗で利用できるクーポンを配布してお店にきてもらう、という販促型のクーポンのプロモーションを実施したことがありますが、1週間実施した結果、お客様は我々の媒体に限らず全ての媒体のクーポンを全く持ってきませんでした。さすがにこのままだといけないとアンケートをとることにしました。売上ではなくブランド認知の部分はどうなっているんだろう、ということで調査をしてみると、お客さんは各媒体ともきちんと見たうえで来店していました。その中でも我々の媒体は成果が良かったという傾向が出ていました。ですから広告をはちゃんと見ている、ただ1回の広告でわざわざ自分のスケジューリングしたコースを外れてクーポンを持って来店するまでのきっかけになることは相当難しいことがわかりました。ですから、販売促進を目的とした広告をやるのであれば、旅ナカで、さらに自社のアカウントをフォローしているとか、さらにファネルを絞った先に細かく配信するという作戦が必要になると思います。なおかつ来店機会を逃さないように店舗網が全国にあるとか、そういう諸々の条件をクリアした上での実施を勧めます。今の日本の広告主さんのステージだと、認知・興味・感心を強化しないといけない段階ではなだろうかと考えています。

三島:失敗しやすいマーケティングとはなんだろう?と考えた時、短期目線で物事を見てしまうというのが1番に挙げられます。特に「少ない予算で、すぐに売上を増やしてほしい」などの実現が難しい要望をよく耳にすることがあります。本来は、中島さんが仰ったようにマーケティング施策を「ブランディング」と「販売促進」2つの切り口で長期的に見て、どの媒体をどのように使っていくかをきちんと理解して進めていく必要があります。一方で、マーケティングに携わったことのない方が突然インバウンドマーケティングの担当になり、マーケティング施策の設計や運用を進めるのはとても難しいことだと思います。そこをフォローアップすることが私たちの立場では大切ですね。3社それぞれが持っているサービスの強みや媒体の役割を的確に発信し、理解してもらうことが代理店側の大きな役割だと考えています。

「ブランディング」と「販売促進」2つの切り口で長期的に見て、どの媒体をどのように使っていくかをきちんと理解して進めていく必要があります

(第2弾へつづく)

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sai

日本語同時通訳専攻の在日中国人マーケター。 日本語・中国語言語能力を活かし、インバウンド事業を4年間携わってきており、約100社企業様にインバウンドプロモーションのプランニング支援。

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